秋田県といえば、見渡す限りの美しい田園風景が広がる「米どころ」として有名ですよね。しかし、その風景を支えている農家の方々が、どのような形で農業に携わっているのかを詳しく知る機会は少ないかもしれません。実は、秋田県の農業において、農業以外の仕事も持つ「兼業農家」は非常に大きな存在感を放っています。
この記事では、最新の統計データをもとに、秋田県の農業における兼業農家の割合やその推移、そしてなぜ秋田で兼業というスタイルが定着しているのかを分かりやすく紐解いていきます。これからの秋田の農業の姿や、新しい働き方についても触れていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
秋田の農業における兼業農家の割合と基本データ

秋田県の農業の姿を知るためには、まず数字から現状を把握することが大切です。秋田県では多くの農家が活躍していますが、その内訳を見てみると、専業で農業を行っている世帯よりも、他の仕事と組み合わせて活動している世帯が目立ちます。
農家の分類である「専業」と「兼業」の違い
農家という言葉は一括りにされがちですが、統計上ではいくつかの種類に分けられています。まず「専業農家」とは、世帯員の中に兼業従事者が一人もいない農家のことを指します。つまり、家族全員が農業だけで生計を立てている世帯のことですね。
一方で「兼業農家」は、世帯員の中に農業以外の仕事に従事している人がいる農家を指します。さらに兼業農家は、農業所得が主である「第一種兼業農家」と、農業以外の所得が主である「第二種兼業農家」の2種類に分類されます。この違いを理解しておくと、秋田の現状が見えやすくなります。
最近では、これらに加えて「自給的農家」という分類も重要視されています。これは経営規模が小さく、主に自分たちで食べる分を生産している農家のことです。秋田県でも、高齢化に伴い販売目的から自給目的へシフトする世帯が増えています。
秋田県における農家構成比の最新状況
2020年に実施された農林業センサスの結果を見ると、秋田県の販売農家に占める兼業農家の割合は約7割から8割に近い水準で推移しています。これは、秋田の農業が非常に多くの兼業層によって支えられていることを物語っています。
【秋田県の販売農家の内訳イメージ】
・専業農家:約25%前後
・第一種兼業農家:約10%前後
・第二種兼業農家:約65%前後
※数値は近年の傾向を概算したものです。
特に注目すべきは「第二種兼業農家」の多さです。秋田県では、平日は会社員として働き、週末や早朝、夕方に農作業を行うというスタイルが一般的です。この傾向は、特に稲作が中心となっている地域で顕著に見られます。
農家全体の数は年々減少傾向にありますが、その中でも専業農家の割合が少しずつ上昇し、兼業農家(特に第一種)が減少するという二極化が進んでいます。これは、小規模な兼業農家が離農し、大規模な専業農家へ農地が集約されているという背景があります。
全国平均と比較した秋田県の特徴
秋田県の農業構造を全国と比較すると、非常に特徴的な点が見えてきます。全国的には都市近郊での園芸農業(野菜や花など)も盛んですが、秋田県は圧倒的に「稲作」の比率が高いのが特徴です。稲作は他の作物に比べて機械化が進みやすいため、兼業との相性が良いのです。
全国平均と比べても、秋田県は「第二種兼業農家」の割合が比較的高い水準にあります。これは、地域の雇用環境と農業が密接に関わってきた歴史があるからです。地元の企業に勤めながら、代々受け継いできた田んぼを守り続けるというライフスタイルが定着しています。
また、一戸あたりの経営耕地面積が全国平均に比べて広いことも秋田の特徴です。広い土地を持ちながら兼業を維持するためには、大型機械の導入や家族の協力が欠かせません。このように、秋田の農業は「大規模な土地」と「兼業という働き方」がセットで発展してきました。
秋田県で兼業農家が主流となった背景と歴史

なぜ秋田県では、これほどまでに兼業農家が多いのでしょうか。そこには、秋田の気候風土や、お米という作物の特性、そして時代の変化に伴う社会構造の変遷が深く関わっています。
米どころ秋田と稲作の作業特性
秋田県は日本屈指の米どころであり、農地の大部分が水田です。お米作りは、春の田植えと秋の収穫時期に作業が集中しますが、それ以外の期間は水の管理や草刈りが主な仕事となります。この「作業のピークがはっきりしている」という特性が、兼業を可能にしました。
かつては全て手作業だった農作業も、昭和の中頃から急速に機械化が進みました。トラクターやコンバインの普及により、一人でこなせる作業量が大幅に増え、短い時間でも効率的に作業ができるようになったのです。これにより、外で働きながらでも十分に農業を続けられる環境が整いました。
さらに、秋田の広大な平野部は大型機械を導入しやすかったことも追い風となりました。効率化が進めば進むほど、農業に拘束される時間は短縮され、結果として「平日は会社、週末は田んぼ」という二足のわらじを履くスタイルが標準化していったのです。
冬季の出稼ぎ文化から地元就労への変化
歴史を遡ると、秋田の農家には「出稼ぎ」という文化がありました。雪深い冬の間は農業ができないため、男性を中心に首都圏などへ働きに出るのが一般的だったのです。この時期から、農家は「農業一本」ではなく、外からの現金収入を得るという習慣を持っていました。
その後、高度経済成長期を経て、秋田県内にも工場や企業が増えてくると、遠くへ出稼ぎに行く必要がなくなりました。地元の企業に就職し、安定した月給を得ながら、家では農業を続けるという現在の兼業スタイルが確立されたのです。
このように、もともと「冬は別の仕事をする」という土壌があった秋田において、通年で会社勤めをする今の形は自然な流れでした。農業は「家業」として守り、現金収入は「会社員」として得るという合理的な選択が、多くの家庭で選ばれてきたのです。
農地の維持と「家」を重んじる文化
秋田県では、先祖代々受け継いできた土地を大切にするという意識が非常に強いのが特徴です。農地は単なる資産ではなく、家族の歴史そのものと考えられています。たとえ農業の収入が少なくても、「田んぼを荒らすわけにはいかない」という思いが兼業を続ける大きな動機になっています。
この「土地を守る」という強い意志が、離農を食い止める役割を果たしてきました。もし専業でなければいけないという決まりがあったなら、多くの農家がもっと早くに土地を手放していたかもしれません。兼業という選択肢があったからこそ、秋田の美しい景観が維持されてきた側面もあります。
また、地域の共同体(集落)との繋がりも重要です。水路の掃除や地域の行事など、農家として地域に参加することが求められる場面が多くあります。兼業であっても農家であり続けることで、地域コミュニティの一員としての立場を保持しているという側面もあるでしょう。
秋田では「お米は自分で作るもの」という感覚が根強く、親戚や近所でお米を融通し合う文化も、兼業農家を支える精神的な基盤になっています。
兼業農家という働き方のメリットと現在の課題

二つの仕事を掛け持つ兼業農家というスタイルには、多くのメリットがある一方で、現代特有の難しい課題も抱えています。現在の農家がどのような状況に置かれているのか、多角的な視点から見ていきましょう。
安定した収入源の確保とリスク分散
兼業農家にとって最大のメリットは、家計の安定性です。農業は天候や災害、病害虫の発生によって収穫量が大きく左右される不安定な産業です。さらに、農産物の価格変動という市場リスクも常に付きまといます。
しかし、会社員としての給与収入があれば、万が一作物が不作だったとしても、生活が困窮することはありません。この「リスク分散」ができる点が、兼業農家の強みです。安定した生活基盤があるからこそ、安心して農業に打ち込めるという好循環が生まれます。
また、会社勤めで得られる厚生年金や健康保険などの社会保障も、長期的な生活の安心に繋がっています。農業所得を再投資(新しい機械の購入など)に回し、生活費は給与で賄うという戦略的な経営を行っている世帯も少なくありません。
多忙を極めるスケジュールと体力の問題
一方で、二つの仕事をこなすのは決して楽なことではありません。特に田植えや稲刈りのシーズンになると、兼業農家は「休みなし」の状況に陥ります。平日は会社で働き、土日は朝から晩まで田んぼに出るという生活は、相当な体力を必要とします。
最近では、農業従事者の高齢化が進んでおり、60代や70代の方が会社定年後も「兼業のような形」で農業を続けているケースが多く見られます。体力が衰えてくる中で、過酷な農作業を一人でこなすことの限界が、多くの家庭で課題となっています。
また、時間の制約があるため、急な気候の変化への対応や、手間のかかる新しい作物への挑戦が難しいという側面もあります。効率を重視せざるを得ないため、どうしても稲作中心の単調な経営になりやすいというジレンマを抱えています。
後継者不足と耕作放棄地の増加問題
秋田県に限らず、全国的な問題となっているのが後継者の不在です。親が兼業で苦労している姿を見て育った子供たちが、必ずしも農業を継ぐとは限りません。都会へ就職し、地元に戻らない若者が増えたことで、農地の受け手がいないという事態が深刻化しています。
兼業農家がリタイアする際、後継者がいないと、その土地は「耕作放棄地」になってしまう恐れがあります。一度荒れてしまった田んぼを元に戻すには、多大な労力と費用がかかります。これが地域の景観を損なうだけでなく、害獣の被害を増やす原因にもなっています。
現在、秋田県内ではこうした小規模な農地を地域の中心的な農家や農業法人に集約する動きが進んでいます。しかし、全ての土地をカバーするのは難しく、いかにして「兼業としての受け皿」を次世代に繋いでいくかが、地域全体の大きなテーマとなっています。
【兼業農家の主なメリット・デメリット】
●メリット:収入の安定、社会保障の充実、土地の継承、地域との繋がり
●デメリット:多忙による過労、機械維持費の負担、後継者探しの難しさ
現代の秋田で広がる新しい農家のスタイル

時代の変化とともに、兼業農家のあり方も変わりつつあります。従来の「会社員+稲作」という形だけでなく、最新技術の導入や、全く新しい価値観に基づいた農業の形が秋田でも芽生えています。
スマート農業の導入による作業の効率化
兼業農家が抱える「時間の不足」という課題を解決する手段として、今最も注目されているのがスマート農業です。GPSを搭載した自動操舵トラクターや、ドローンによる農薬散布などが、秋田の田んぼでも日常的に見られるようになってきました。
例えばドローンを使えば、これまで数日かかっていた防除作業が、わずか数時間で完了します。これは、限られた時間しか農業に割けない兼業農家にとって、画期的な変化です。最新技術を活用することで、体力の負担を減らしつつ、高い品質を維持することが可能になっています。
また、スマートフォンのアプリで水田の推移を確認・調整できるシステムも普及し始めています。わざわざ田んぼまで見に行かなくても管理ができるため、会社に勤めている間でも状況が把握できます。こうしたテクノロジーが、現代の兼業スタイルを強力にバックアップしています。
副業としての農業「半農半X」の広がり
近年、若者を中心に「半農半X(はんのうはんえっくす)」という生き方が注目を集めています。これは、持続可能な農業をベースにしながら、自分の好きなことや得意な仕事(X)を組み合わせて生きていくスタイルです。秋田県でも、こうした移住者や若手が増えています。
従来の兼業農家は「生活のための会社員」という意識が強かったのに対し、新しい層は「自己実現のための複業」として農業を捉えています。例えば、Webデザインをしながら野菜を育てる、カフェを経営しながらお米を作る、といった形です。
このような新しい風は、地域の活性化にも繋がっています。これまでの大規模な稲作とは一線を画し、少量多品目の栽培や、SNSを活用した直接販売など、独自のビジネスモデルを構築する動きも見られます。兼業の定義が、よりポジティブなものへと進化しているのです。
法人化や作業受託による組織的カバー
個人の農家が全てを背負うのではなく、地域の農業を組織で守る動きも加速しています。集落営農の組織化や農業法人の設立により、個々の農家が「できる範囲で参加する」という形が増えています。
例えば、田植えや稲刈りなどの重労働は法人に委託し、日々の水の管理だけを個人(兼業農家)が行うという分業体制です。これにより、仕事を辞めることなく、無理のない範囲で農地を守り続けることができます。これは「部分的な兼業」とも言える新しい形態です。
こうした組織的な取り組みは、機械の共有によるコスト削減にも繋がります。高い機械を個人で買い揃える必要がなくなるため、経済的な負担も軽くなります。秋田の広い農地を維持するために、個人と組織が手を取り合う形が、これからのスタンダードになっていくでしょう。
秋田の農業を支える兼業農家の未来と支援制度

秋田県の農業にとって、兼業農家は決して「いなくなるべき存在」ではありません。むしろ、地域社会を維持するためには欠かせないパートナーです。今後、どのような支援があり、どんな未来が待っているのでしょうか。
秋田県が実施する就農支援プログラム
秋田県では、新しく農業を始めたい人や、親の跡を継いで兼業を始めたい人を応援するための制度が充実しています。「秋田県立農業研修センター」などの施設では、基礎から学べる研修コースが用意されており、働きながら学べるカリキュラムもあります。
また、資金面でのサポートも重要です。国や県が実施する「新規就農者育成総合対策」などの事業では、要件を満たせば経営開始資金として給付金を受け取ることができます。これにより、収入が不安定になりがちな初期段階を乗り切ることが可能になります。
さらに、秋田県独自の取り組みとして、移住と就農をセットで支援する制度も活発です。空き家情報の提供や、地域住民とのマッチングなど、ハードとソフトの両面からサポート体制が整っています。兼業からスタートして、将来的に規模を拡大したいという夢を持つ人も増えています。
地域で守る農業と新しい担い手の形
これからの秋田の農業は、一軒の家だけで完結するものではなくなっていくでしょう。地域住民や、週末だけ農業に参加する「週末農家」、そして都市部に住みながら関わる「関係人口」など、多様な人々が関わる形が求められています。
兼業農家としての経験を持つ人々は、地域の事情にも詳しく、外部との橋渡し役としても期待されています。会社で培った経営感覚やITスキルを農業に活かすことで、これまでにない革新的なアイデアが生まれることもあります。こうした「ハイブリッドな担い手」の存在が、秋田の農業を面白くするはずです。
また、企業が農業に参入するケースも増えています。地元の企業が福利厚生の一環として、あるいは新規事業として農業に取り組む際、ノウハウを持つ兼業農家の知見は非常に重宝されます。個人と企業が連携し、地域のブランド力を高めていく動きも今後さらに重要になるでしょう。
持続可能な農業に向けたコミュニティの役割
最後に見落とせないのが、コミュニティの力です。秋田の兼業農家が長年続いてきたのは、お互いに助け合う精神があったからです。機械を貸し借りしたり、人手が足りない時に手伝い合ったりする関係性は、今もなお大切にされています。
最近では、オンライン上でのコミュニティ形成も進んでいます。栽培の悩みをSNSで相談したり、新しい販路を仲間と一緒に開拓したりといった動きです。物理的な集落の枠を超えて、志を同じくする農家同士が繋がることで、新しい持続可能性が見えてきます。
秋田の農業は、大きな転換期にあります。しかし、兼業農家の割合が高いということは、それだけ多くの人が「農業に関わりたい」という思いを持って土地を守ってきた証拠でもあります。その思いを次の形へ繋げていくための仕組みづくりが、今まさに進んでいます。
【秋田県で農業を考える際の相談窓口】
・秋田県農林水産部(農業政策課)
・各地域の「農業委員会」や「JA(農協)」
・秋田県新規就農相談センター
まとめ:秋田の農業における兼業農家の割合と今後の展望
秋田県の農業において、兼業農家は古くから地域を支える柱となってきました。統計データが示す通り、販売農家の大部分を占める兼業農家の存在は、秋田の稲作文化や景観を維持するために欠かせないものです。
これまで解説してきた通り、秋田県では米どころとしての特性や、歴史的な出稼ぎ文化の背景から、合理的な選択として「会社員+農家」というスタイルが定着しました。現在は、高齢化や後継者不足といった厳しい課題に直面していますが、同時にスマート農業の普及や「半農半X」といった新しい働き方の波も押し寄せています。
専業であれ兼業であれ、秋田の豊かな大地を守りたいという思いは共通しています。今後は、個人の努力だけでなく、テクノロジーの活用や組織的な協力、そして行政の支援をうまく組み合わせることが鍵となるでしょう。多様な働き方が認められる現代だからこそ、秋田の兼業農家は新しい可能性を秘めた、魅力的なライフスタイルとして再定義されていくはずです。




